Tales From Topographic Ocean ( 海洋地形学の物語 ;1973 )

のっけから問題作で恐縮です。イエス作品中最も賛否両論渦巻くこの二枚組、 結論から言えば、私は結構好きです。・・・部分的に好き、と言うことですが 。聴くのは決まってアナログA面「神の啓示」(お経みたいなイントロが大好きです)及びD面「儀式」だけだったりします。はじめてこのアルバムを聴いたのは高校一年の暑い夏・・・熱心なファン の方に聞かれたら激怒されそうですが・・・激しい部活の後と言うこともあったにせよ、私はB面「追憶」の途中で、眠りに落ちてしまったのです。その後、もちろん聴き直したのですが、いまだに印象は薄いのです。リック ・ウェイクマンあたりに言わせると、「冗長さが目立つ、成功作とは言い難い作品」ということになるそうで、結果として彼の第一回目の脱退の遠因にもなってしまった、とのこと。そういったことを聞いたからかもしれませんが、私もどうも無理矢理膨らませた作品、というイメージが拭いきれずにいます。緻密に練り上げられた構成の作品が多い彼らの作品の中で、どことなくホンワカとゆったりした味があって、それはそれでいいのですが(「古代文明」の後半のハウのスパニッシュ&フォークギターなんて実は大好きだったりして)反面、前作品「危機」にみられる 凝縮された緊張感が失われているような気がします(次作で見事に復活しますが)。ライナーによればこの作品、コンセプトと曲づくりはジョン・アンダーソン とスティーヴ・ハウが中心となった模様で、リックとクリス・スクワイアの影は どうも薄いようです。アラン・ホワイトも加入したばっかりだし。この辺が影響しているのかなあ・・・。ともあれD面の「儀式」は、いまも私、ちゃんと聴いておりますし、名曲だと思います。「リレイヤー」の編成で聴けるライヴ(大昔、NHK-TVの「ヤング・ミュージック・ショウ」で放送していましたね)なんてかなり良かったですよね。ところで、この項を書くにあたってアルバムを聴き返してみたら、「追憶」だけえらく盤が減ってるみたいなんですよ。なんで?

TALK(1994)

いきなり21年も飛んじゃいました。すまん。実は私、最近某ニュースグループで知り合った方からCD-ROMを頂いて、初めて聴きました。そして、思わずCD買いました。ところで、評論家筋ではなんだか酷評されまくっていたみたいですけれど、そんなにひどいか?私なんかは、一曲目の”The Calling”からなんだか嬉しかったぞ!90年代のイエスのやたら厚いコーラスが。そりゃあねえ、私がしばらくイエスを聴いていなかったせいもあろうけれど、そして某音盤収集人間誌によれば、いわゆる「ハードディスク・レコーディング」のため”緻密さを増した”、という何故か極端にダイナミック・レンジが狭くなったよーな音でもあろうけれど、”Endress Dream”は結構いいぞ!イントロなんて、年甲斐もなくゾクゾクっとしたぞ。アラン・ホワイトも珍しく凄いぞ!だからですね、ファンにとっては、この2曲でOKなんじゃない?(すまん。他の曲は確かにイカンかも)。というのはあまりに強引ですかねえ・・。

Close To The Edge(危機;1972)

私が初めてイエスという世界に触れた作品です。まず、タイトルロゴの人間的なデザインと、奇麗なグリーンのジャケットに惹かれて衝動買いしました。帰ってきて中を開いて何しろ驚いた。ジャケット内側のイラストが絵本でしか見たことの無いような幻想的な世界・・・理想郷のようで、ちゃんと制限のある世界・・・を映し出している。ロジャーさんの絵との出会いでもあります。そして、3曲ともまさに「凄かった」のです。せめて「こわれもの」でも事前に聴いておけば、ショックも幾らかは少なかったんでしょうが、今まで聴いた事がない類の楽曲に出会って、それが「危機」の3曲!ってのはいかにも強烈。特にタイトル曲ですが、この作品によって「イエス」ひいては70年代の「プログレッシヴ・ロック」の魅力にとりつかれた人々は本当に数しれないと思います。ところで、今聴いても心から感心しますのは、その構成の素晴らしさとロック本来の持つエネルギーを見事なまでに昇華していること。メンバーが持ち寄ったアイディアの断片をリハーサルを重ねながらつなぎ合わせていって創り上げた曲らしいですが、そういう方法で歴史に残る作品を生み出せたということは、当時バンドとしての創造力がまさに頂点に達していたっちゅうことでしょう。ウェイクマンのパイプオルガンからエンディングに至るクライマックスを初めて聴いた日の衝撃はいまだに忘れることが出来ません。

Relayer(リレイヤー;1974)

個人的には「危機」の次に大好きな作品です。「海洋地形学の物語」でちょっと見られた迷いを吹っ切って、「危機」のエネルギーを取り戻した会心作。作品の密度やイエスの作品の持つ独特の緊張感、といった点では、ひょっとしたら「危機」以上ではないでしょうか。例によって私が聴くのは主に「錯乱の扉」で、モラーツのキーボード・ワークがアグレッシヴで非常に好きです(この一枚のみで彼が脱退したのをジョン・アンダーソンはとてもとても悲しんだらしいです)。それに触発されたか、他のメンバーのせめぎ合いもなかなかで、スリリングな演奏を展開しています。構成も非常に明快で、勢いに身を任せやすいというか、没入しやすいところなど、これはもう当時で言う”ハードロックのカタルシス”ではないですか?

Yessongs (イエスソングス;1973)

私が聴いた頃は、EL&Pの「レディース&ジェントルメン」と人気を二分する3枚組のレコードだったワケですが、こっちは必携物、EL&Pの方はかなり好き者が持っているという差があったような気がします。いずれにしても、当時の定価5,700円は重く(いまなら貨幣価値的には13,000円位?)両方持っている人はいませんでしたねえ。ともあれ、「レコードと寸分違わぬ演奏で、しかもスクワイアなんてなんと踊りながら弾いている」なんて当時のライナーに書かれていた様に、リスナーにとってのこのアルバムのポイントは明白で、しかも彼らは、「シベリアン・カートゥル」からちゃんとその期待に応えてくれるのでありました。この辺がブラッフォード脱退の原因とする向きも確かにある訳でして、そう言う意味では、この頃のイエスの立場を問う問題作かもしれません。最近私は、火事で焼けちゃったレコードの代わりに、紙ジャケ3枚組のCDを購入して聴き直したのですが、再認識したのがスティーブ・ハウの素晴らしさです。小技効かして、休む間も無く本当に弾きまくっておりますなあ。レコードを聴いていた当時は、わりとハードロック少年だったこともあって、ハウの6弦全部弾いちゃうコード・ストローク(ラウンドアバウトなどに顕著な)が気になって仕方がない、なんてこともあったのですが・・・。ところで、このCDのライナーで初めて謎が解けたんですけれど、「危機」でのウェイクマンの弾いてる(と思っていた)パイプオルガンって、エディ・オフォードのテープのポン出しだったんですね。あの音は当時のキーボードで出せる音じゃない!と長年思っていました。だからってこのパフォーマンスの魅力は全然揺るぎないものですが、「レコードの再現」には相当神経を遣っていたんだなあ、とイエスの自己認識に改めて感心した次第。
加えて「ユアーズ・イズ・ノー・ディスグレイス」などの様に、新たな生命を与えられたが如き曲もあり、それがこのアルバムの大きな魅力の一つになっています。

The Yes Album (1971)

「こわれもの」「危機」へのジャンプアップの土台となったアルバムと言えます。彼らにとっても愛着が深かった作品であろうことは、「イエスソングス」に6曲中ハウのソロなどを除く4曲が収められていることからも明らかです。最初に「危機」を聴いてしまった私には、この作品は非常に素朴なものに感じられてしまいましたが、実際のところ、当時のイエスが持っていたストレートで肯定的なロックの感性が素直に発露した作品ではないでしょうか。いわゆるプログレを、「曲が長くて暗くてなんだかさっぱり解らない」という頑固な人(たとえば私の配偶者)に是非聴いて欲しい作品であります。
このアルバムは、スティーブ・ハウのイエス初参加作品であり、彼のソロ作である「ザ・クラップ」がライブ収録されていて、当時の彼に対する期待の大きさも伺えます。確かに彼の参加は、その後のイエスの運命を左右した(もちろんいい方に)ことは、歴史が証明していますね。前述しました「リレイヤー」の編成で聴けるライヴで確か「ザ・クラップ」の演奏シーンを見た記憶がありましたが、あれは非常にかっこよかったなあ。

Fragile (こわれもの;1971)

「イエス」の世界的な評価を高めた作品と言われております。やっぱり、「ラウンドアバウト」と「燃える朝焼け」が良かったんでしょうね。そして、ご存じの通り、メンバーのソロ作が一曲づつ収められていますが、注目すべきはこの5曲では?この時点での各メンバーの資質(或いは嗜好)が如実に表れており、非常に面白い。契約問題でブラームスをやる他なかったリック・ウェィクマンは別として、ほかの4人は「オレが好きなのはコレ。なんか文句ある?」とばかり独自の世界を思いっきり展開しております。私が好きなのは、ジョン・アンダーソンの、彼が敬愛して止まない”レノン・マッカートニー”を通り越した!コーラス・ワークの一品、そしてビル・ブラッフォードの16小節のアレです。特にビルさんの曲は、コレ聴いてFRIPP氏がクリムゾンへ誘惑したんじゃないか、とも思われる問題作。これらのアバンギャルドな作品群と、取っつきやすい「イエス」の曲が同居した危ういバランスの作品・・と私は思っております。

Drama(ドラマ;1980)

ジョン・アンダーソン第一回目の離脱作品(でもイエス名義のアルバムで、彼が不在なのはこれ一枚のみ)。私、発売時はプログレ休止期のため、聴いたのはだいぶ後になってからでしたが、一聴して、「おお、イエス結構頑張ってるじゃん!」と思いました。聞けば、発売後のイエス=ジョン派のトレバー・ホーンへの一部過激派の反発は凄まじく、ライブでは「ジョン」コールが起こるなどまさに80年代・親日プロ観客暴動状態の如くだったとのこと。可愛想にねぇ。確かに「トーマト」以前の曲はとっても演りにくかったことでしょう。でも、「Into The Lens」なんて、彼ならではの味があってなかなかいいのですよ。そう言えば、この曲のプロモ・ビデオ観て、なんでハウのギターが宙に浮いてるんだろう、なんて馬鹿な勘違いをしたものでした。さて、結局この作品で明らかになったのは、イメージ的にはジョンの影にあってそれほど目立たなかった、ハウ=スクワイア体制の実力が証明された、ということに尽きるのではないかと思います。ジョン不在にスクワイアが踏ん張った!のか、かなりハード・ロックしていて爽快な曲も多く、プログレ・ファン以外の方にもお薦めできるアルバムです。

90125(ロンリーハート;1983)

いやー、参った。こんなに良いアルバムだったとは。はっきり言って衝撃でした。勿論シングル「ロンリーハート」は耳タコのつもりでいましたし(売れた当時、私が在籍していた会社では日がな一日洋楽有線を流していました)、正直言ってそれ程好きな曲でもなかったので、「イエスイヤーズ」を入手してからもさほど心して聴いたりはしなかったのです。しかしながらひょんなことからこのCDを知り合いの方からお借りして聴くことができ、まさに耳からウロコ体験をさせて頂きました。しかしあれですね、トレヴァー・ラビンってぇ人はとんでも無いミュージシャンですねぇ。クリスさん、どこから引っ張ってきたのか解りませんが実にお目が高い。この人のイエス加入前の音楽活動については私全然知りませんが、本国(南アフリカ?)では有名な方だったんでしょうか?ことギター演奏という点についてはスティーブ・ハウとはルーツ的には全然違う人のような気がしますが、イエスの看板を維持しながら全く新しい世界へとバンドを導いた功績は大でしょう。(もちろんトレヴァー・ホーンの存在も無視できません)音的にはさらにシャープかつメタリックに変貌を遂げ、「Leave It」みたいに以前のイエスではちょっと聴けないようなサウンドも楽しめます。そんな訳で別にこれは文句ではないのですが私は「イエス・イヤーズ」を最初に聴いていましたので、ライヴもののヘヴィーな「変革」が大好きなのです。だもんで、90125中の同作品はちょっと物足りなく感じてしまった、ということはありました。それから「Our Song」の印象的な部分、ちょっとエイジア3枚目の「Rock and Roll Dream」に似てるっちゅうのは考え過ぎですか?

Anderson,Bruford,Wakeman,Howe(1989)

リズム隊がクリムゾンのお二人というのがやはり聴き捨てなりませんね。レヴィンさんはやや遠慮ぎみですが・・。キーボードの音色も爽やかに張り切っているウェイクマンさんと3人で「デジタルはやっぱり面白れーのう。うはうはは。」とばかり炸裂しています。1曲目の「Themes」からまあ本当に気持ちの良いことで、これってイエスのCDじゃ無いんでないの?と思っている未聴の人がいたら勿体ないので、この場を借りて強くお薦め致しておきましょう(勿論イエス名義では無いですが)。その後90年代に入って例の8人でのリ・ユニオン・ツアーが始まっちゃった訳ですが、この時期私はプログレから離れていたので、この作品がどのように受け取られているか非常に興味深いところであります。作品のネタはジョンが提供したというものが多かったらしいですが、ラテンっぽい曲なぞ聴くとほほーなるほど・・と思わされますね。ところで全般的にHowさんの主張が目立たんようでやや気にはなります。さて、曲単位で言えば私は「Order of The Universe」は最近大好きになりましたで。ちょっと突っ込めばツギハギ曲の印象も免れませんが、”Rock Gives Courage”!タイトルも含めてこれこそRock’n Roll!の名曲ではあーりませんか?

An Evening Of Yes Music Plus(イエス・ミュージックの夜1993)

おそらくは権利関係の問題だとは思われますが、「Fragile Records」というレーベルから発売されている輸入盤には演奏者のクレジットが全く記載されていない、という妙なCDとなっています。そもそもはK.B.T.V.で放映された音源だったそうで、A.B.W.H.にBrufordとの音楽活動でのパートナーとして知られるジェフ・バーリン、ジュリアン・コルベック(スティーブ・ハケットの「東京テープ」ツアーに参加していた人)らを加えた充実した演奏が楽しめます。
勿論新曲の数々もなかなかですが、やはり往年のファンにとってはBruford在籍時の名曲の数々が本人のプレイでまさに「甦る」のがこのCDの何よりの福音と云えましょう。しかも各メンバーの技術の円熟、テクノロジーの進歩は言うに及ばず、随所に見られる作品の新たな解釈も効果的であり、特に「危機」の素晴らしさは特筆ものであります。極論かもしれませんが、オリジナルとかなり味わいの異なる別ヴァージョンだる、と私は勝手に思っております。余談ではありますが、私この「危機」を耳にしながらBrufordのタイコで「錯乱の扉」を聴いてみたいもんだ、とちょっと恐ろしいことを考えてしまいました・・・。
さて、聴き通してみるとこの4人のYESでの個性のあり方、というか貢献度をそれぞれ痛感する訳ですが、残念ながらこれはYESでは無い、という事実をも思い知ることになります。スクワイアのゴリゴリと突き進むベースの音色は思いの他YESというバンドに強烈な色を焼き付けているのですね。「俺は始まったときから今までずーっとこのバンドのメンバーだったんだぞ。」という彼の主張はやはり正しいのでしょう。

Yesyears (イエスイヤーズ;1991)

プログレ方面のBOXとしては比較的早めに世に出た作品です。イエスのベスト盤は数あれど、CD4枚組という余裕のキャパシティという事もあって大曲も充分網羅されており、イエスの歴史を大まかに掴み取るには最適のセットだろうと思います。既発曲もリマスタリングされてますので音質的にも安心です。「危機」や「儀式」等の名曲が収録されているのは嬉しい限り。未発表音源についてもBBCやライヴ、そしてスタジオ作品の別テイクがセレクトされており、中でもビートルズのカヴァー等は彼らのルーツが窺えるようで興味深いものがあります。”ドラマ”の収録曲やスクワイヤ名義のシングルもあるのですが、こういった曲を聴くと、ボーカルは勿論ジョン・アンダーソンでは無いにもかかわらず、紛れもなく「イエス・ミュージック」であることには今更ながら驚かされますね。マニアの方々にとってはBBC音源の収録日の誤表記などの問題が無くもないとのことですが、総じては曲の再編集などの暴挙も少ないのはまあ宜しいことではないかと思われます。
私個人にとってはライヴが有り難く、90125編成時の「変革」など、トレヴァー・ラビンのギターが一層ダイナミックになっていてお気に入りであります。
このセットは発売時邦盤10,000円でしたが、注意してみれば中古CD屋さんで5,000円位で手に入ります。英語が堪能な方以外は出来るだけ邦盤を入手した方が良いでしょう。ディスコグラフィー等の資料も付いているらしいですし、何よりブックレットの解説が読めないのは宝の持ち腐れであります。実は私も輸入盤の3,500円という安さに目が眩んだばっかりにこの宝を腐らせている一人でありまして、以来ボックスものに関しては輸入盤には余程のことが無い限り手を出さないよう心掛けております。