私は、70年代のGENESISしかほとんど知りません。特にP.Gabriel在籍時を熱心に聴いていたクチなので、その方面がお話の中心になりそうです。ところで、 98年の8月にGabriel時代のBOX”Archive”の国内盤が遂に発売となりました。発売日が3回位延びてしまいましたが、Gabriel・GENESISのファンはさぞかしワクワクしながら 聴かれたことでしょう。(私もその一人です。ブックレットの文章量がとんで もなく多いので、”Yesyears”の輸入中古盤を4,000円の安さ に惹かれて買ったはいいが、解説が全く読めないという苦い経験を持つ私として は、迷ったあげくに国内盤発売まで待ってまあ正解だったでしょう。)・・・ということで 、本題に入りましょう。

SECONDS OUT (幻惑のスーパーライブ ;1977)

先述の内容とはいきなり矛盾しますが、Gabriel抜きのGENESISから始まります 。私とGENESISの初めての出会いがこれ。やはり、渋谷陽一氏のNHK-FMの番組で このアルバムが紹介され(ちょうど邦盤の発売時)、その中の一曲であります ”Firth Of Fifth”を耳にしてから、私のGENESISへの執着が始まりました。当時高校生 だった私は、月1回1枚のLPを買うのがやっとでして、故に次に購入するレコー ドはかなり吟味するのが当然だったのですが、コレについてはこの不文律が通用 せず、出会った次の日に盛岡の「レコードクラブ」という店に走りました。で、 まず驚いたのは非常に想像力を刺激する楽曲群と、キラキラ輝くような音の美しさ。特 に随所に聴かれるストリングスの音色には心が奪われたモノです。(この頃はも うメロトロンの時代は終わっていました)それから、ツイン・ドラムの圧倒的 なパワーも超説得力でした。チェスター・トンプソンは勿論大活躍で、”Cinema Show”でのUK結成前ブラッフォードは元気元気!フィル・コリンズもライバル 意識むき出しで非常にスリリングです。いま振り返って見ると、よく言われる ようにハケットさんの存在感がやや希薄ではありますが、(”Firth Of Fifth”ギタ ー・ソロ・メロメロ事件、ていうのもありましたな・・・) Gabriel抜き体制 をもうしっかり確立したんだよ、というGENESISのマニフェスト的ライヴ・アル バムといってもよいのでは。Gabrielの脱退当時のGENESISは、今思えばロジャー ・ウォーターズ抜きの今のフロイドほどではないにせよ、「もうオシマイ!」っ て感じで見られていたわけですからねえ・・・。

The Lamb Lies Down On Broadway (幻惑のブロードウェイ;1974)

「羊」ですね。羊は結構ムズカシイ。「羊をめぐる冒険」という村上春樹氏の 小説があります。私はこの本を少なくとも30回は読みましたが、おそらくその すべてを理解しているとは胸を張って言えますまい。「自己喪失の危機→自己発見への旅→アイデンティティーの確認」というプロセスは似ているかもしれません。ただ、「羊を・・・」に顕著な、強い喪失感はこのアルバムとはまた別のものでしょうけど。

このアルバムの「意味」は確かにヤヤコシイです。(人種的)マイノリティーの設定の「意味」 、トラウマ及び夢=深層心理(フロイト→ユング←あるいはシュタイナー)の位 置づけなどなどのノーマルな解釈に加えて、当時のGabrielの置かれた状況(メンバーとの軋轢、家庭内の危機、etc.)の複数のクラスタ・・・でもまあその辺りは 、わははは!「ブリティッシュ・ロック集成」あたりにおまかせしましょう。や っぱり私には分析は難しい、というかどうでもよいのです最近は。私もかつては「月影の騎士(邦盤)」のライナーで、「夢を見ていた男が、夢に見られていた男の夢を見て目を覚ます・・・(でしたっけ?)」なんて言う一節の意味合いに囚われて2~3日よーく眠れない、などということが多々ありましたが、プログレが好きな割には小難しい理屈を考えるのが非常に苦手であります。今や、羊がブロードウェイに寝そべっていようと、32枚のドアがあろーと、”It”が何を意味していよーと、満足できる音があればヨロシイのであります。先日も例によって仕事中にブツ切りで聴きましたが”It”に至る前後はやはりかつての様に感動出来るのに改めて驚いた次第です。、問題作ではあるにしろ、はっきり言って楽曲はイイ。ロックのダイナミズムにあふれた曲が充分用意されているし、90分通しで聴かせるチカラのある作品です。後述の「アーカイヴ」収録のライヴ版も、未聴の方は是非聴いて頂きたい。いえいえ、私たちがあんなに大騒ぎしたBOXも中古輸入盤なら今や3,000円・・・トホホ。

Nursery Cryme (怪奇骨董音楽箱 ;1971)

次回作の”Foxtrot”とは兄弟の作品。GENESISが最もファンタジックだった頃で、基本的なコンセプトは同じアルバムですね。作品自体の幅は、次回作のほうが断然広いですが。ドラムがフィル・コリンズに、ギターがスティーブ・ハケットにかわって、演奏力が格段に進歩した感があります。いわゆる「プログレ黄金期」の最初の作品です。後々までライヴの定番となった”The Musical Box”は、緩急自在な演奏が不気味なGabrielの詞と絡み合い、彼らならではの独特のムードを創り上げていて、素晴らしい。”Harold TheBarrel”なんて、何故か私も好きなんですけど、これってライヴではさすがに演ってませんよね?演劇のシナリオのセリフのやり取りをそのまま曲にしてしまった、と言う感じで、その後のGENESISの専売特許になりました。また、”The Return Of The Giant Hogeed”も曲構成、アグレッシヴなリズムワークとギターがステキですが、ハケットさんのイントロのギターって、ライトハンド奏法なんですよね?・・・ところで、このアルバムの”The Fountain of Salmacis”のエンディングが、”Foxtrot”の”Watcher of The Skies”に繋がっている、というのは私の考えすぎでしょうか?(キーも音も違いますけれど・・・)

Selling England By The Pound (月影の騎士 ;1973)

このアルバムのイントロとアウトロが大好きなんですよ。Gabrielの朗々とした歌唱と非常に悲しげな歌詞、イイですねえ。GENESISの作品のコンセプトが、ファンタジーから社会批判へと移行していったポイントとする向きも多いですが、私が感じる所では、社会批判云々といった観点はいわばスパイス程度のもので、それまで築いてきたGENESISの音楽世界は依然として確固であり、むしろ演奏力が格段に向上した点に注意が向いてしまいます。しかしながら「The Cinema Show」のパートに見られるようにハッとさせられる抒情もまた健在。更にこれに伴ってインスト部分がやや増えたような印象もあり、これにGabrielが不満だった、と言うお話も聞いたことがありますけど、どうですかねえ。当時彼らの曲づくりについては、完全な合議制だったらしいし、しかも次作の方向性を考えると、バンドとしては喜ばしい事だと思うんですが・・・。

Foxtrot(1972)

GENESISの名を一躍世界に知らしめた傑作です。1曲目のイントロ・メロトロンの響きが幽幻の世界へと引きずり込んでくれます。ファンタジックな彼らのイメージはもちろん踏襲しておりますが、それに加えてこのアルバム中の「ウォッチャー・オブ・ザ・スカイズ」や「サパーズ・レディ」における、リズムの力強さや曲全体から発せられるパワーは並大抵のものではありません。いずれの曲も、70年代中期まではライヴでの定番になっておりますが、「サパーズ・レディ」のGabriel在籍時のライヴテイクは、恥ずかしながら私例の箱モノで初めて聴きました。思っていたよりも激しい演奏で、圧倒されてしまいました。最近聴いて感じるのは、この曲はもともと数々の小曲の断片を組み合わせてあのような大曲にまで発展したらしいですが、この構成力はスゴイ!ほとんど奇跡に近い仕上がりではありますまいか。イエスの「危機」やEL&Pの「悪の教典」らと並び称される70年代プログレの名曲という評価に、異論を唱える人はまずいないでしょう。(・・・でも「もっとスゴイこんな曲があるぞ!」なんて人は是非教えて下さい)ところで、個人的にはアナログA面最後の「キャンーユーティリティ・アンド・ザ・コーストライン」のひねくれた味も好みではあります。

Genesis Live (1973)

前作の”Foxtrot”があまりに売れたために、急遽ラジオ・ショー「キング・ビスケット・フラワー・アワー」用に収録された音源をリミックスを経て発売されたという曰く付きの作品。しかも、テスト盤にはあの「サパーズ・レディ」も入っていたそうな。(聴きたかったよー!)そんな事情もあってか、当のメンバー達はこのアルバムの出来をあまり気に入ってなかったようです。確かに、全曲がほぼスタジオ盤と同様のアレンジであり、ライヴならではの音や展開を期待するとハズレではあります。この”ライヴでの+α”の部分という意味では、当時の彼らの演奏はこんなもんじゃない!という世評もよく聴くことですし、少なくともこの作品に収められた音は、当時の彼らの最良のライブ音源ではないのかもしれませんね。(この辺の不満は後々に「アーカイブ」が解消してくれるのですが、残念ながら曲目のダブリは全くありませんでした)その中にあって、最大の聴きモノは「ナイフ」でありましょう。パフォーマンス自体のパワーはもとより、ハケットのキレたソロは凄い!少なくともGENESISにおける彼のプレイで、オモテだってこれほどアグレッシヴさが聴けるのは他にないのでは・・・。この一曲だけでモトが取れます。

Wind & Wuthering (静寂の嵐 ;1977)

ハケットさんの影が薄くなっちゃったともっぱらの評判のアルバム。でも、「ブラッド・オンザ・ルーフトップス」のイントロなんて相変わらずさすが!って感じです。バンドとしてはいよいよ自信にあふれた作品が揃っている様に思われます。1,2曲目のキーボード群の大活躍ぶりも注目に値しますよね。ところで、この頃からのGENESISの曲って、「泣かせるメロディー・ライン」が結構登場し始めたよーに思うんですけどいかがでしょう?私最初にこの作品を聴いたとき、なぜか「ワン・フォー・ザ・ヴァイン」の間奏部分に思わず涙ぐんでしまいました。当時国内盤のライナーに「泣け泣け!」みたいな事が書いてあったからかもしれませんけど。暗示にかかりやすい性格なもので。ただ、「Your Own Special Way」には、あまりの甘さにその後を心配させるなーんかイヤな予感がしたものです。話は変わりますが、アナログB面のインスト、「まどろみ~静寂」のメドレーは、彼らの力を存分に発揮した、イマジネーションを刺激する名作だと思います。

…And Then There were Three(そして3人が残った;1978)

遂にスティーブ・ハケットの脱退、とうとう三人のユニットになってしまったジェネシスですが、この状況を逆手に取った強気のタイトルと共に敢然とアルバムを発表しました。でも、悪いけど私は邦題にちょっと笑った(すまん)。音づくりについては当然キーボードの嵐化に拍車がかかり、発売当時は曲調は更に甘甘Very Very Sweeeeetになったと言う印象がとても強く、私はちょっと乗れませんでした。今聴くとそうでも無いし、優れた”POPなアルバム”だとは思いますのですが。当時はやはり青かったのでしょうかね。前作の延長上にある作品で、「Burning Rope」のように確かにいい曲もあります。ありますが、私はシングル「Follow You,Follow Me」が発売された時点でこれ以降のジェネシスにプログレを期待しちゃいかんなぁ、と悟りましたのでした。前作の「Your Own Special Way」に対峙した時に芽生えた”なーんかイヤな予感”が当たってしまったのですね。でも、個人の問題はさておいても、このアルバムと前作はジェネシス・ファンの踏み絵みたいな位置にありますよ、実際。そして、私が一旦別れを告げたその後のジェネシスは、80年代に世界で最も成功した”元”プログレバンドへと変貌を遂げて行き、このまま世界のPOPバンドにすんなり収まるのかと思わせといて・・・驚くべき事に!80年代的にシリアスなプログレへの挑戦という局面を迎えたのでありました。

(GENESIS関連作品ということで)
Voyage Of The Acolyte;Steve Hackett(侍祭の旅;1973)

スティーブ・ハケットという人は、ライト・ハンド奏法を始めとして結構いろんなワザを細かく使う人ではありますが、基本的にはバンドのアンサンブルを最重要視するギタリストではないかと思われます。従って派手なギター・ソロは無い代わりに、絶妙なバッキングや美しいメロディーが素晴らしい、と感じる事が多々有るわけです。
このアルバムは、ジェネシス在籍中に発表された彼の初のソロ・アルバムです。全体の印象としては、まさにジェネシス作品の路線。”極めて民主的なグループ”であるジェネシスの総意から洩れた曲が収録されているため、というのは勿論ですが、それだけ当時のバンドの色に与える彼の影響力を思わせるもの、とも解釈できましょう。佳曲揃いですが、特に最後の曲となっている「ラバーズ~司祭( The Lovers~The Shadow Of The Hierophant )」は名曲です。儚げなヴォーカルは、あのマイク・オールドフィールドのお姉さんであるサリー・オールドフィールドでこれが見事にハマッておりまして、エンドレスな幽玄の世界を一層魅力的に創り上げています。この一曲だけでモトが取れます(こればっか)。私は78年頃に廉価版(1,500円)を入手、そろそろ傷んできたのでCDも買っておこうと思う今日この頃であります。尚、ハケットさんのソロ活動についてはguitsさんのHPに詳しいので、ご興味のある方は是非ご覧下さいませ。

Peter Gabriel;Peter Gabriel(1977)

GENESIS脱退後初のソロ・ワークで、クリムゾンのロバート・フリップが業界復帰してバンジョーを弾いたということでも有名(?)なアルバムです。その後ワールド・ミュージックの開祖的な存在にまでなってしまった人ですが、この頃はまだプログレの残り香がプンプンしておりまして、当時これを聴いたファンも比較的あっさりと納得したんじゃないでしょうか。ともあれ、GENESISというグループの合議制の呪縛から解放された為か、この一枚に収められた音楽は極めて伸び伸びとPOPであり、且つ恐るべき幅を持っているように感じられます。「Slowburn」にはまるでQueenを彷彿させるコーラスラインが覗き、「Down The Dolce Vita」ではオーケストラの大胆なうねりが聴ける、といった具合です。全体的にドラマティックというか派手な曲が多いのはこれ、プロデューサー(ボブ・エズリン)の影響でしょうかね?何しろ後年フロイドの「壁」に一枚加わった人ですからねぇ。ただ、これが実際に等の本人が目指していた路線だったのか?と疑問に感じられる曲もあります。例えば最後の「Here Comes The Flood」という作品ですが、ロバート・フリップのソロ・アルバムである”Exposure”収録の同曲別ヴァージョンの方がひしひしと胸に迫ってくるものがあり、どっちかというとこちらの方が私は好きです(フリッパートロニクスびいきなモノで)。
「羊」で自らの総てをさらけ出した後だからでしょうか、詞を眺めていると、力強い決意表明ともとれそうな言葉がそこかしこに見受けられます。ある種の潔さまでも感じられる魅力的な作品だと思っているのは私だけでしょうか?
ピーターとトニー・レヴィンの出会い、そしてフリップとレヴィンの出会い、といった点からも歴史的には興味深いアルバムではあります。
ARCHIVE 1967-75 (アーカイブ ;1998)

いったい何年待ったことでしょうか。国内リマスター盤CDのライナーに、「BOXTROT」(95年秋発売予定)の概要が記載されてから2年あまり。ウワサを遡れば5年は楽に待っていたと思います。更に、(輸入盤はともかく)国内盤の再三の延期という事態に、ジェネシス・ファンの堪忍袋はもう風前の灯火、という有様。勿論私もその例に漏れず、CD屋さんに何度この件で電話したことか・・・。しかしながら、待ったかいがあったと言うべきか、数あるプログレ系のBOXSETの中でも屈指のレベルの高さを誇る作品として、我々の前に登場したのです。また、一時期はジェネシスの全ヒストリーを4枚組に纏めて発売するという暴挙も噂されていましたが、当初の予定通り「ガブリエル・イヤーズ」として第一弾が発表されたわけで、この点でもファンの期待に充分応えてくれたのではないかと思います。
さて、肝心の内容ですが、オフィシャル未発表のライヴの数々がやはり目玉であり、個人的に「羊」のコンプリートライヴに注目していた私としてはまず音質の素晴らしさに圧倒されました。実際にはヴォーカルやギター、あるいは歓声に差し替えやオーヴァーダブが施されているようですが、私は幸か不幸かこの音源のブートレグをほとんど未聴だったために、何の疑問も抱かずいわばおまけ付のパフォーマンスに我を忘れて浸る事が出来たのでした。その演奏ぶりは、噂に違わず迫力にあふれるもので、ライヴバンドとしてのジェネシスの往年の実力を再認識させるに余りあるものです。先の「ジェネシス・ライブ」の収録曲が比較的お行儀の良い印象があるだけに、「アーカイブ」における「羊」の鬼気迫る演奏はライヴならではの表情と価値を200%楽しめます。
DISC3については、やはり「月影の騎士」や「サパーズ・レディ」のオフィシャル・ライヴを楽しみにしていたファンにとっては本当に嬉しい贈り物でしたね。(ブートを聴いていた人は随分いらっしゃったとは思うけど)特に後者の、MCに続いて毅然としたヴォーカルが始まる瞬間は、何度聴いても背筋がゾクゾク致します。このMCと言えば、星野さんのメールマガジン「STAR GARDEN」に、「アーカイブ」のMC訳(南出さん入魂の労作)が掲載されました。ご覧になった方は多いと思いますが、25年余に渡って私たちが抱いていたイメージをあっさり覆すあっと驚く真実!も明らかになったりして、非常に興味深い内容でしたね。その他「たそがれの酒場」は初めて聴きましたが、起伏に富んで意外に面白い曲でした。「Happy The Man」は思ったよりあっさりした曲でちょっと拍子抜けしました。
さて、DISC4ですが、私「トレスパス」以前のジェネシスについては不勉強のため、偉そうなことは言えませんので、勘弁して下さい。ごめんなさい。次は「フィル・コリンズ・イヤーズ」だそうですので、みなさん楽しみに待ちましょう。